GPS

登山で遭難というニュースをよく見る。遭難の多くは帰り道がわからなくなって起こる場合が多いようである。結構ベテランでも道に迷うという事はあるようだ。今年に入ってからも登山歴40年という人が山中で3日間さ迷って救助されたというニュースがあった。雪山ではルートが不明瞭になりがちなので気をつけなければならない。しかし、その人は一番最後を歩いていたというから、何故トレースをたどらなかったのかというのは疑問である。トレースをたどれば追いつけたはずだし、迷ってもトレースをたどって戻る事は不可能ではない。何故、ルートを外れたのか。近道をしようとしたのか。山では近道というのは結構危険な事である。トレースをたどるといっても、雪が降っていると1時間くらいでトレースは消えるからそういう状況だったのかもしれない。でもコンパスと地図があればとは思うが実際の状況は当人に聞いてみるしかない。
地図とコンパスを持っているからといっても山で道に迷った時には必ずしも安心という訳ではない。何故なら道に迷った時点で現在位置がわからなくなる。地図で現在位置を確認する場合、最後に確実にわかっている地点からどれだけどの方向に進んだかで現在位置を推定する。あくまでも推定である。常にコンパスで移動方向を確認していないとどの方向へ進んで来たのかよくわからない。短時間の間に進んでいる方向がずれて1方向へ進んでいるはずが、何時の間にか1周していたという事は私自身、経験済みである。まわりの景色からも現在位置を推定する事もできるが経験が必要で、雨や曇り、ガス、夜などで景色が見えない事は山ではよくあり悩む。特に初めて登るような山は地図上の山谷と実際に見比べてこのあたりの位置というのはわかりそうでなかなかわからないものである。現在位置を誤って推定すると地図を見てこれと思う方向に進んでも、たどり着けないばかりか、返って遠くなる場合もあり得る。例えば、登山道の右へ来てしまったと思って戻ろうとして左へ進むとする。しかし、実際は登山道の左にいたという事になると、左に進む事でますます登山道から遠ざかるのである。だから記憶をたよりに来た道を引き返して正しい登山道にたどりつく事は最も安全に正規のルートに戻る方法なのである。もし、間違ってどんどん進んでしまうと来た道もわからなくなり、元に戻れなくなり、遭難という事になってしまう。そんな時、GPSを持っていれば判断材料が増える。GPSが正確に動作していれば迷っていても現在位置は正確にわかる(地図は必要)はずである。GPSはカーナビが最も一般的だが携帯できるGPSもあるのだ。ここではGPSという時は携帯型のGPSを単にGPSという事にする。

1.GPSを使う目的

基本的に百名山の山(無積雪期)では登山道がよく整備されているのでGPSの必要はない。むしろ、これらの山ではGPSを頼りに山を登る事はかえって危険である。登山道がわからなくなったら即座にGPSを使うよりも戻って登山道を探すべきである(但し、GPSで現在位置を確認する事はより安全かもしれない)。GPSだって機械だからいつ故障するとも限らない。それに頼るよりは自分の目と耳と頭をつかって判断する方が確実である。ではGPSはどういう場合に使うのか。それは登山道がないか、不明瞭な山、あるいは積雪期の山ではかなり有効だろう。但し、GPSの情報もあくまでも情報の1つとしてとらえるべきである。その他の用途としては現在位置を知る事により、目的地までの到着時間を予測できる。どこで休もうかなどと考えていて、やっといい休憩場所を見つけて休んで出発したら目的地のすぐ近くだったという事はよくある。また小さな途中の山や通過点は標識などがなく何時の間にか通り過ぎてしまう場合があるがGPSがあればある程度この辺という事がわかる。登山道で分岐を過ぎると次の分岐まで標識がない場合は多い。間違って進んだ場合、かなり過ぎてから間違いに気がつく場合がある。分岐を過ぎると標識がないので気がつかないのである。そんな時にGPSがあれば間違いに早く気づく事ができる。

2.GPSの選択

GPSには色々なメーカー、機種がある。国内ではEMPEX(えんぺっくす)、海外ではGARMIN(がーみん)が有名なようである。EMPEXのGPSは日本語表示が可能で日本の地図を搭載している機種もあるが価格が高い。山でのGPSの使用に適したものはどれかを考えてみる。
お金があれば迷わず一番高いものを購入するというのも手である。高価なものほど色々な機能がついているし、日本語表示なら使い易い。しかし、私のような貧乏人はそうはいかない。やはり、価格と機能を比べるのである。

1)日本人なら日本語表示の方が使い易いのは当然であるし、マニュアルが日本語というのも重要なポイントである。しかし、GPSの機能はそれほど多岐に渡るものではないので慣れれば英語版でもいいのではないかと思う。懐具合次第である。

2)GPSは電池で動作するので電池の持続時間も気になる。迷った時だけの使用という事であれば数時間でも問題はない。しかし、私が使うには何所を通ったかを記録して次回に役立てたいという気持ちもあるので移動中はずっと電源を入れておきたい。最大3泊4日の山登りともなれば1日10時間としても40時間程度は必要である。数時間しかもたないのでは持って行く電池の重量も重くなる。またデジカメに単3電池を使用するので出来れば同じ電池がいい。同じ電池を使用すれば互いに流用でき、持っていく予備の電池を少なくできる。

3)GPSには地図があった方が当然良い。GARMIN社のUS版のGPSにはアメリカの地図しか標準装備されていない。日本の地図を別に入れるとかなり高価になる。しかし、日本の地図を入れたとして役に立つのだろうか。多分、山の地図はほとんど入ってないだろう。山では新たにデーターを入れておく必要がありそうである。日本の地図が入っていれば車の移動でも使えて便利である。しかし、カーナビに使うには携帯GPSでは機能が低く、運転しながら使用するには無理がありそうである。カーナビにはやはりカーナビ専用の機器を使うのがいいだろう。中古のカーナビなら安く入手できるだろう。その方が使い勝手や価格面でも有利と思われる。但し、携帯GPSでも車を止めて現在位置を確認する程度はできるのである程度の使い道は期待できる。

4)結果的にGARMIN社のeTrex Ventureという機種を購入した。その下の基本のeTrexでもいいと思ったのだが、オークションで入手した都合上、割安だった。両方の違いはルートの入れられるデーターの数がeTrexは1つしかないというくらいなのだが、後でそれはちょっと重要な事だとわかった。登山では通常、登る前に1つのルートを決めていて、登山の途中でルートを変更する事はほとんどないのでルートは1つ入れられれば十分と考えていた。しかし、山のルートでは1周して戻るというルートは多い。その場合、現在位置に最も近いポイント(位置)に行くようなナビゲーション(移動指示)になる。ルートが1周していると最終地点が最も近いので最終地点に行くような指示になってしまう。これを防ぐには行きと帰りとを2つのルートにわける必要がある。但し、ルートナビゲーションを使わなくてもそれなりに行くべき方向はわかるし、実際問題、GPSに頼ってばかりで登山をする訳ではないので価格重視で選択するなら安価な方がいいかもしれない。
後で再確認したところルートナビゲーションは現在位置に最も近い位置へ行く方向を指示し、最終ポイントへ到着するとルートナビゲーションはそれで終了してしまう事がわかった。従って、1周するようなルートを設定した場合、最終ポイントをどの位置からも遠いダミーの位置を設定する事により、だいたいの場面でルートナビゲーションを有効に使用できる方法がある事がわかった。但し、当然、1部のルートは正常にはナビゲーション表示をしないし、ルートのウェイポイントの設定によってはうまくできない場合もある。右の例で言えばstartから出発してある程度次の位置に近づくまではダミーの前の実際の最終ポイントへ行く指示をするがそれ以外は正常なナビゲーションをするようにできている。

3.GPSは正確か?

登山に使うには基本的には十分正確である。しかし、使ってみた結果では おや?っと思う事も多い。

1)近くを1まわりして同じ場所に戻ってきたら位置が重ならず、20mほど違った位置の表示になった。実際の位置はせいぜい1mくらいの違いのはずである。

2)GPSをONにしたまま家の中へ入ると、衛星の電波をキャッチできなくなり、現在位置はわからなくなるのだが、最後に衛星の電波を受信したと思われる位置より2〜3分の間に30m(最大50m)くらい北へ移動していた。

3)家の周りを一周したら最初の位置より30m北に真っ直ぐに移動していた。もう1周したらさらに北へ20mほど移動している事になっていて合計50mも現在位置が狂って表示された。別の日に同様に家の周りを1周したら南東へ30m移動し、何回か家の周りを回っているうちに最初の位置より50m東に移動に表示されていた。家の周りでは衛星の電波をよく受信できない場所がある。

4)車のダッシュボードの上にGPSを置いて移動していて、後から地図と照合してみると、ほとんどはぴったりと一致したが、たまに位置が50mくらいずれて表示している区間があった。トンネルをくぐったり、ビルに入る、陸橋の下などを通過すると位置が狂って測定される事があり、5分程度は位置がずれたまま修正されない事があった。

5)車のダッシュボードの上に置いて移動中にだんだんと位置がずれて最大50mくらいずれていた事がたまにあった。

6)胸のポケットに入れて自転車で移動していたら最初は衛星を捉えていたが何時の間にか途切れてしまい、3分の1くらいはトラックログ(位置の軌跡の記録)が途切れていた。胸のポケットではうまく電波を拾えないようである。

7)陸橋の下を歩いて移動した時に移動できるはずの無い場所に50mくらい移動していた。陸橋の下などの複雑な構造物の下では電波が乱反射して測定が狂う事があるのかもしれない。

8)実際に山で使用してみた。胸のポケットではGPSを捕捉できない時がある。ザックの上に入れれば良さそうだがGPSを見るにはザックを降ろさないと見れない。ザックの上では歩いている間にいつの間にか外れてGPSを落としても気がつかないので心配。頭の上ではちょっと変。という事でザックの肩紐にケースを付けて入れる事にした。GPSは肩よりやや背中よりにある。体をひねればGPSを取り外す事ができてGPSを見られる。平地ではGPSを捕捉できない事は無かったが山では実際にトラックデーターは途切れていた。山と山の間の峠や谷、急傾斜の場所ではそれほど急傾斜ではなくてもGPSの電波が入りにくいようだ。そういう場所でGPSを手に持って高く上げてもGPSは3個ほどしか捕捉できなかった。平地では手に持ってGPSを上に上げても地面に置いてもさほど違いはないが、山では地面に置くとGPSの電波が極端に弱くなる場所があった。山での使用は注意が必要なようである。

9)山でGPSを使用していて電波が入りにくいようなので正確な現在位置を測定しようとして1度電源を切って入れたところ、現在位置を400kmも離れた日本海の真ん中に表示した。そして1分くらい後で正常に近い位置になった。400kmも違ったら明らかな間違いとわかるが微妙にくるっている場合は気がつかない可能性もある。GPSのデータは常に疑ってみる必要がありそうだ。

以上の事から50mくらい(最大100mくらい?)は常に誤差を見込んでおく必要があるだろうと思われる。何故、こういう結果になるのかを推測すると、おそらくGPS測位が不安定な場合、過去の位置からどの方向へどれだけのスピードでどれだけの時間、進んだかで推測した位置を表示するようになっているのだと思う。おそらくこの問題を回避するには1度、電源を切って再度、電源を入れて現在位置を測定しなおせばいいように思われる。誤った位置でも精度5mなどと表示している場合があるので注意が必要で出来れば推測値が何mあるのかを表示するとかの工夫は欲しいと思うが、それでも充分注意して使えば頼りになりそうだし、安価でもあるので満足できるものだと思う。

4.使ってみた感想

やや問題もありそうだが、GPSは意外と正確で頼りになりそうだ。小型で長時間の使用ができるのも魅力である。ただし、マニュアルはわかりにくい。英語と直訳した日本語のマニュアルがあるがマニュアルを読んでいると頭がこんがらがる。GARMINだけでなくEMPEXのマニュアルも同程度である。GPSの技術はいいかもしれないがマニュアルを見ると三流の会社との感がいがめない。マニュアルには使う上で必要な事が網羅されていない。GPSとパソコンとのインターフェイス部分はマニュアルに書いてない事があり、設定に思考錯誤が必要だった。パソコンとのインターフェイスのコネクタも使いにくい。

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